風力発電で水を電気分解して水素を貯めて、各家庭の水素ユニットで発電と熱を取り出すスマートグリッド構築のための取り組み。
バイオマスでは、藻の栽培により海と水槽でタンパク質を生み出し、付加価値の高い脂肪酸を取り出して、残りはガス化してエネルギーを生み出し、最終的な残りかすは肥料とする取り組み。(今後30年以内に化学肥料のリン酸不足が深刻になることへの対応でもある)
日本の自然エネルギーへの取組みが遅れていることを実感。
以下、オーガニックマーケテイング協会のブログから
http://blog.livedoor.jp/organic_marketing/archives/29244149.html
7月2日。東京世田谷区にて、世田谷区にて、世田谷区主催「自然エネルギー活用による地域づくり」と題した勉強会が開催されました。平日、しかも18時30分から21時という遅い時間にもかかわらず約200名収容の会場は満席、市民の関心の高さがうかがえます。冒頭、世田谷区長の保坂展人さんからのあいさつです……
「自然エネルギー研究会も今回で3回目。世田谷区には2つの柱がある。それは、エネルギーの地産地消と地域間連携です。世田谷には広い土地はないが、たくさんの屋根があります。これをうまく使って、エネルギーを生み出そうということと、地域間連携では、これまでのつながりのなから、各地でつくっていただいたエネルギーを、消費地である世田谷で巧みに使っていくことです。今回来ていただいた、レオ・クリステンがいらっしゃるデンマークのロラン島は、島が使う必要エネルギーの5倍ものエネルギー生産をしているエネルギー先進地です。ぜひ自然エネルギーの活用、暮らし方の転換も含めて、学んでいきたいと思います」
デンマーク、ロラン島の自然エネルギー活用の取り組みについて
ロラン島は、コペンハーゲンから南に約150kmほどに位置する沖縄本島ほどの島。行政単位はロラン市で、人口6万5千人。主要産業は農業と自然エネルギー発電で、てんさい、馬鈴薯、麦、酪農を営み、電力のすべてを風力発電などの自然エネルギーで賄っています。年間の発電量は、島で必要な電力量の5倍にあたる、約2500ギガワット。自然エネルギー活用の先進地域として世界中からの視察が絶えず、今回お話しをいただいたレオ・クリステンセンさんはロラン市の市議会議員で、1990年代後半から環境エネルギー事業の推進の中心人物として活躍、地域の活性化に貢献してきた人物、とのことです。
ロラン島はブルーのピンのところ
ロラン島市議会議員のレオ・クリステンセンさん
スタンスから行動へ
今日私がお話しするのは「スタンスから行動へ」というテーマ。辺境地帯、離島と呼ばれる地域が、持続可能性を成長戦略にしたらどうなったか、ということを中心にお話しを進めていきたいと思います。
こ の小さな地球のすべての生き物は、地球というところを共通の棲家にしています。人間は、彼らに非常に大きな影響を与える唯一の存在です。その中で、世界中 の誰に聞いても、ほとんどの人が、海面上昇を止めたい、飢餓を止めたい、人口流出を止めたい、と言うと思うんです。このように、ほとんどの人間は正しいス タンスを持っています。でも、正しいアイディアとスタンスだけでは十分ではありません。私たち人間は、地球に対して責任のある立場として、政治家、ビジネスマン、研究者、オピニオンリーダーたちとともに、新たな行動指針を作っていかねばならないのです。私たちは、これから持続可能な社会づくりをしていきたいというのが共通の認識と思いますが、そのカギはそれは都市部ではなく、農村に可能性があります。
どん底からの再生
ロラン島は、デンマークの南部にある面積1243平方kmの島で、人口はわずか6万5千人ほど。豊かな土壌と水に支えられた、農業が主力の土地ですが、近代化以降、造船などの産業が生まれ、繁栄に酔っていたというような時期、73、75年のオイルショックのときでさえ、気に留めるひともほとんどいないほど、 のんびりとしていた時期を過ごしました。しかしそれは長くは続かず、そののち、絶望のどん底に落とされました。79年から86年までの間に、ロラン島では60%の既存産業の雇用の場が失われていきまし た。造船が閉鎖になり、伴って鉄鋼、食品産業も後を追い、その下請けも倒れてしまったのです。40%もの高い失業率となり、以来30年近く苦境逆境の時期 を迎えることになったのです。最悪だったのは、エンジニア、管理職など高学歴の人たちが、島からいなくなったことです。この長い間のどん底は、知性の消失 が大きな原因と言えるのです。私が非常に力を込めて言いたいのは、ロラン島が犯したこの失敗からこそ、学んでいただきたい、ということです。
98 年、ロランはようやく目覚めることになりました。そのきっかけは、新しいビジョンを持った市長が就任したこと。エネルギーと環境分野において最も持続可能 な自治体を目指そうということになりました。グリーンな自治体になるということは、単にCO2ニュートラルになるというだけではたりませn。エネルギーは 使う分だけではなく、輸出しようじゃないか、エネルギーの使用を、まわりがびっくりするほどに減らし、みんなが見に来るようにしよう。重工業が盛んで自然 破壊もひどかったので、自然を取り戻す活動も進められました。さらには、新しいことをしようという大学のために最高の環境を用意しよう、企業の経験を学校 でも、子どもたちとも共有しよう、という取り組みをしました。ロラン島はデンマークで最も貧しい自治体の一つでしたが、ただひとつ違ったのは勇気ある政治 的なリーダーシップと、積極的に理解し行動しようとする市民がいたことです。このことで、自治体は10年もしないうちにみるみる変わっていきました。結果 として、ロラン島では現在、自分たちが使う電力の5倍のエネルギーを風力で生み出すことが出来るようになったのです。
エネルギーと切り離せないのが農業なのですが、現在農業の方々は、農業生産で500億円、そしてエネルギー生産で300億円を売り上げていまて、将来この比率が逆転しても不 思議ではありません。こうした発展も産業界や学校との連携があったからこそです。農業が産み出すエネルギーとは、わらをバイオマスと見立てた熱や電気など や、風力発電です。彼らは風力発電機を農地に設置して、食糧だけでなくエネルギーも収穫しているのです。
島全体で進む数々の取り組み
ロラン島は、地域全体が大規模な フルスケールの研究所となっています。現在35ほどのプロジェクトが並行して稼働していて、エネルギーや環境の技術革新、新しいソリューションを開発す るために地域や住民、大学などと一緒になって動けるようになっています。ここで、実際の実証実験をしていくうえで市民の協力は欠かせません。そのために は、市民が自分たちが主役になって新しい技術を開発していくんだという意識づけが必要であり、それを市民に理解していただくために自治体と産業界が常に必 要な情報提供を怠りません。
こういうことは、今日来場の皆さんからは、「それは田舎の自治体だから出来るのではないか?」と思われるかも しれませんが、そんなことはなく、これは大きな人口と経済を抱える世田谷でもできる、と私は断言できます。たとえば、たくさんの人口を抱える都市では、下 水から有効成分を取り出したり、エネルギーを取り出すなどが考えられないでしょうか。下水も非常に大きなバイオマス、と捉えることが出来るのです。世田谷 だけでなく、自然からエネルギーを取り出すことは、どこでも可能です。ただ、潤沢ではあっても不安定だという点は気を付ける必要があるでしょう。貯めてお く知恵が必要になってきます。
ロランでは、水素にして貯める方法を検証しています。風力などで生じたエネルギーで水を電気分解して発生す る水素を貯めて、必要に応じ送り、各家庭に設置の水素ユニット(マイクロCHP)を通して熱や電気を取り出す方式です。35軒の家庭で実証実験が進められ ています。この実験は将来のスマートグリッド構築のために大きな貢献をしています。こうしたプロジェクトはエネルギー生産ができない時期や、都市や産業 が、一時的に大量のエネルギーを必要とするときにも対応できるので、非常に大きなメリットがあるのです。最近、これを35軒から1万軒に拡大しようという 案が、承認されたのです。
このほか、市民とのコラボレーションで成功しているのがオンセヴィという漁村での事例です。ここは2006年に 洪水で村全体が浸水してしまった場所です。この先50~100年で地球は1mほどの界面上昇が起こるといわれています。これは世界の沿岸地域すべてに影響 を及ぼします。ちなみに3つの世界的な問題、そのひとつは海面上昇。これで世界の16億5千人が家を失います。2つめは食糧不足。人口がどんどん増えてい く中で、30年以内に化学肥料のうちリン酸不足が深刻になるといわれています。3つめが人口流出。農村部から都市部への人口の移動がどんどん進み、今以上 に都市と農村の格差が進むと言われています。
オンセヴィでは、水害の跡に、75haの農地を守るため、新たな堤防をつくることになりまし た。そこで、堤防の外に水をポンプアップするために、大学との研究で、貯めた水を利用した藻の培養実験をしました。この水には畑からの豊かな栄養や、二酸 化炭素が含まれています。ここに藻を使うのです。堤防を造るのにかかる費用を、堤防自体がお金を生む仕組みにということで、考え出されたのです。藻をバイ オマスと捉え、そこからエネルギーを生み出すことが出来ればお金になり、そのお金で堤防にかかる費用を賄おう、ということになったのです。ロラン島はいち ばん高いところでも海抜25mしかなく、年間5000~7000万立方mの水を汲みだ出していますが、こちらでも藻によるエネルギー生産が検討されていま す。
化石燃料の完全な代替をバイオマスで担おうとするためには、陸上だけではバイオマスが足りません。輸送のエネルギーのことも考えた ら、バイオマスを大量に生み出す必要はより高く、そこで期待されるのが水や海で生み出されるバイオマス、藻なのです。藻を利用するメリットは、生育場所が 海なので成長が非常に速いこと、そして、食糧不足といわれるときに、陸上は食糧生産に向けられるべきであるという点です。エネルギーを考えた結果の藻の採 用ですから、その第1プライオリティはエネルギー生産。ところが研究を進めるうちに、その優先順位は3番目に下がってきました。藻から、エネルギー以外の 価値が取り出せることがわかったのです。現在いちばん重要なのは、藻からタンパク質を生み出すこと。そして付加価値の高いある種の脂肪酸を取り出し、その うえでガス化してエネルギーにします。最終的な残りかすは肥料、ということになってきています。
トリプルヘックス
ロラン市にはグリーンセンターといって、 北欧最大の研究センターができ、日本を含む世界中の多くの研究者が注目しています。また、ロランと言えば風車ですが、この実績をもとに風力発電の研究所 IWAL(International Wind Academy)が設立されました。こうした実証実験成功のポイントは、必ず産官学が一体になっていることです。コラボレーションでいろいろなものを生み 出すということです。欧州でいわれる「トリプルヘックス」という手法です。知識の集積に効果があり、この方法が一番アイディアを実用化できる方法です。バ イオエネルギーは日進月歩で開発が進んでおり、すぐに時代遅れになってしまうような分野ですから、トリプルヘックスはこれを防ぐのに有効なのです。これに よって知識層の雇用も確保でき、自治体の職員の知識も大学の専門家と触れ合うことでレベルアップし、これも大きな財産となってくるのです。
大都市について考えたいと思います。大都市は、お金があれば資源を利用できるという前提で成り立っています。ところが、今後はお金があっても売ってもらえな くなるでしょう。そこで、お金が見えるメガネではなく、持続可能性が見えるメガネに替えてみませんか?そうして世界を眺めると、大都市は、実は保育器のよ うな存在です。中の赤ん坊は食事も空気も、飲料水も、そして労働すら、外から供給されないと、生きていけないような存在です。大都市の脆弱さが見えてきま す。また、都市が生産しているものもあります。お金、知識です。そして大量のごみという資源です。
このような状況から、都市という存在を 視野に組み込んだエネルギーの利活用についての課題が見えてきます。デンマークはとても優秀なグリーンエネルギーの導入を果たしてきましたが、輸送部門の グリーン化には後れをとっています。また、どんなシステムを使っても生み出されるエネルギーそれは熱ですが、これを活用できることが重要になってくるで しょう。さらに、こうしたシステム全体の構築には、様々な分野との協業を考えていく必要があるでしょう。持続可能な農業、という分野では、日本もぜひ、農 業生産者がエネルギー生産者になっていったらいいと思います。今の農業は、食糧を生み出すために、非常に多くのエネルギーを投入しているという側面があり ますが、エネルギーを生みながら食糧を生産するというビジョンこそ、持続可能な農業なのではないでしょうか。
また、自治体同士の連携も大 切になってくるでしょう。エネルギーを生産する自治体と、エネルギーを消費する自治体の連携が大切なのです。こうした動きは食糧で地産地消にこだわると か、自分の食べているものがどんなところで作られているかなどに感心が高まっていますが、同様のことが、エネルギーの分野でも関心をもたれるようになって くると思います。水の分野においても、気候変動による被害も起こっていることから、自治体同士が手を結ぶ必要が出てきています。IPR(知的財産権 -Intellectual Property Right)について、日本の自治体の方々は意識をされていないように思います。自治体の職員の知識は非常に大きな資産価値を持っていることに気づかな い。公の立場はほかと競争してはいけないということがありますが、知識を自分で売ってお金にするのではなく、知識を集めて、他の、実際に利用できるところ に譲渡する、と考えたらどうでしょうか。今の産業界はお金よりも知的財産が価値が高い、と考えるようになってきています。そうすると、こうした公共部門の 持っている知的財産を産業界で生かせるようになり、それは地域にとっての大きな財産になってくるでしょう。ですから、自治体の職員は、自分の自治体の職員 の持っている知識の集積を的確に把握していることが非常に重要になってきます。知識をもって産業を呼び込むという手法はとてもスマートなのではないかと思 います。
デンマークでは農家になるのは非常に難しい。これからの農家は、食料生み出すだけではなく、エネルギーを生み出し、技術者であ り、研究者であり、生物学者であり、エコノミストであり、広範囲な知識を必要とする職業です。一回の勉強だけではだめで、その後の教育も何度も受けなけれ ばなりません。それは、技術の進歩が早いからです。そこで今、私たちが進めているのが、日本とも、教育や技術の共有ができないかと取り組みを続けていま す。さて、最後にどうしても言いたいのは、「話しているだけでは始まらない、実際にやってはじめて、新しいことが学べる」、ということです。そして、これ からのキーワードは、どうプランづくりをしていくかということ。まずは「教育」です。そして、「地方自治体間の対等な関係」づくりです。
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保坂展人さん(世田谷区長) 関清さん(川場村長)
今回の勉強会では、クリステンセンさんのお話しのほか、保坂区長からは、世田谷区でのエネルギー活用についての取り組みについて、群馬県川場村、村長の関清 さんからは「川場村の新たなむらづくり…森林環境保全と自然エネルギー」というお話しもいただきました。勉強会の締めくくり、保坂区長からのあいさつで、 勉強会は終了となりました。
「デンマークでは、エネルギーが大きく転換する中で、地域が息づいてきたという大きな経験をもっていました。 私たちは消費地に暮らしていますが、様々なネットワーク、地域と地域がつながる、日本国内だけではなくて、デンマークとも、様々なアジアの国々ともつなが る中で、人類が直面している難題を、ひとつひとつ解決していく、希望のあるプロジェクトを、みなさんと一緒に発案していきたいと思います。また今日は、ク リステンセンセンさんから、プロジェクトは考えるだけではだめで、実行して、切り開いていくことが大切とのお話しもいただきました。このことを、しっかり と胸に落として、この会を閉じたいと思います。ありがとうございました」