2013/03/08

最近読んだ本



渡辺京二氏の著書には、「逝きし世の面影」、「江戸という幻想」などがありますが、この本は、江戸時代までの近世以前を書かれています。ここには進歩主義の歴史観はありません。

中世は自力救済の世界であり、村々の抗争が絶えなかった。「農民」による武力での自力救済のための紛争をなくし、領内に平和をもたらすための「武士」と「農民」との社会的合意のもとに、戦国時代、豊臣時代を経て、江戸時代の体制が出来あがっていったのであって、「武士」が「農民」を抑圧して確立した先生体制だはないと解釈しています。



著者の「単一民族神話の起源」は以前に読みました。

ギリシャ・ローマ時代からの思想と社会運動をわかりやすく解説しながら、民主主義の重要性と制約があることを説き、時間がかかるが議論と他者との関わりを広げて関係性を結んでいくことで社会は変わっていくという正論が書かれています。


日本では、福祉と競争は相容れないものとして対立的に考えられていませすが、スウェーデンは、大規模な企業倒産や解雇を容認する激しい競争社会であり、高負担・高福祉という単純なイメージのなかにはなく、法人税は低く抑えられています。

高福祉を実現させるためには、高負担に耐えられる強い経済が必要であり、経済の高成長を維持していかなければなりません。

日本では、年金の議論が制度の議論のみとなっていますが、どのような制度であれ、資金の運用ができる強い経済がなければ、年金を保証することは出来ず、社会保障も成り立ちません。今の日本は赤字国債により将来世代に負担を先送りしている実質的には高負担の国であり、高齢者を含めた今現在の負担のあり方の見直しは避けて通れないと思います。

高齢化社会の社会保障を維持するためには高負担となることは避けられず、高負担に耐えられるけいざいのためには高競争力が求められます。

福祉と競争の対立を乗り越えたところに、スウェーデン・パラドックスがあリますが、その必要性を多くの人に知ってもらう必要があります。



この本は期待して読み始めましたが、正確でない記述があり、がっかりしてしまいました。

デンマークの公的医療は無料ですが、たとえ癌であっても待たなければなりません。待つことが出来ない人は民間の病院に有料で治療をしてもらうことになります。

また、デンマークの食料自給率300%と書き、主食としている豚肉や肉製品、バター、チーズなどの酪農製品の自給率300%と、日本の自給率40%を比較していますが、デンマークの食料全体の自給率は125%(それでも高い)です。また、デンマークの国民一人あたりの農地面積は日本の10倍以上あるのですから、自給率が高いのは当然だと思います。

そして1973年には1.8%だったエネルギー自給率が、2005年には156%になった背景として、デンマークが自然エネルギーに力を入れていることを書き、「日本は相変わらず化石エネルギーに依存して・・・(著者のまま)」と批判していますが、デンマークのエネルギー自給率が100%を超えたのは、ほとんどが北海油田に依存している事実(そしてそのことは全く書かれていない)からすると、知らない読者の誤解を招きます。

著者は必要以上にデンマークを美化しようとしています。



この本は読み出したら一気に引きこまれて読みました。

チェチェン戦争下、バイエフ医師はヒポクラテスの誓いを守り、チェチェン人、ロシア人、軍人、
民間人の区別なく、傷を負うもの、病に苦しむものを献身的に治療します。

しかし、そのためにロシア軍だけでなくチェチェン軍からも追われる身となり、命の危険を乗り越えてアメリカへ亡命しています。

戦争の不条理で冷酷な現実と、人の強さやあたたかさ、理不尽な残虐さとどうしようもない人の弱さが工作した生々しいノンフィクションであり、心を強く打ちました。



マサリクは、学者であると同時に偉大な政治家であり、チェコスロバキアの独立を果たすとともに、ナチスドイツに占領されるまでのわずか20年の間に「ヨーロッパで屈指の工業国となり、何よりも『おそらくかつて存在した最良かつ最高の民主主義国家の一つ』(カール・R・ポパー)となっています。

チェコ民族という少民族が、大国に囲まれながら民主主義とヒューマニズムを実現し得たのは、マサリクという偉人の存在と、チェコ民族中世からの歴史があります。

歴史とともに学ばなければならないことが多くあります。