2012/01/04

ユーロ~危機の中の統一通貨


 三が日に読んだ本、2冊目は田中素香著「ユーロ~危機のなかの統一通貨」でした。ユーロ危機は現在も進行しており、ギリシャの長期金利は30%を超えて上がり続けています。ユーロ危機についてしっかりした知識を得るために読みました。
田中素香氏は長年「ユーロ」に取り組まれ、他にも著作があります。

 ユーロ危機については、昨日ブログに書いたグローバル恐慌の真相のような短期的な分析が多くあるなかで、田中氏の「ユーロ~危機のなかの統一通貨」は、フランやマルクを襲った投機的な通貨危機などの為替の課題を含めたユーロが導入されるまでの歴史的背景、ユーロの制度の概観、通貨統合のメリットとデメリット、ユーロ導入後の推移とリーマンショック及びギリシャ危機の時のユーロの対応とこれからのユーロの課題がわかりやすく書かれていました。(ギリシャ危機の本質についてはグローバル恐慌の真相をクリックしてご覧ください。)

 この本を読むと、ECでの通貨統合とは、そもそも、ヨーロッパが20世紀に2度も戦場となった過去を繰り返さないために、西ドイツを西側に包摂することが目的であり、統合の過程においてはドイツ問題という政治的な側面が強く、経済的側面は少し弱かったことが分かります。

 ユーロ導入までの経緯で決定的な出来事は、ドイツ統一であり、ドイツが主権を回復して一人歩きすることを恐れたフランスのミッテラン大統領と、イギリスのサッチャー首相は統合に反対しましたが、米ソの賛成により、EC諸国内での条件闘争となり、ドイツはマルクを放棄して単一通貨を選択しています。

 当時、ドイツの世論調査では通貨統合反対が60%を超えていましたが、コール首相の決断によって、「欧州統合は平和か戦争かの問題だ」と世論を押し切っています。また、ギリシャ危機に揺れる昨年6月にも、コール元首相は「欧州統合は平和か戦争かの問題」と発言を繰り返し、ユーロ圏全体のことを考えるように警告しています。(ユーロ安の恩恵を最も受けているのはドイツの製造業であり、ドイツはユーロ安により輸出を伸ばして利益を得ています。)

 戦争体験世代がいなくなった21世紀のヨーロッパに危機感を抱く人は少なくないのですが、反面、ユーロがきわめて政治的な通貨であることが、危機を大きくもしています。

 (しかし、ユーロが、当初考えられていた裕福で財政規律のあるマルク圏域の国のみで構成されていたなら、今回のような通貨危機には見舞われなかったでしょうが、円とともにユーロも相対的に高い通貨となり、通貨高不況を招いていたと思います。)
 ドイツはユーロ圏への参入を受け入れる代わりに、他の参入国に財政規律を求めましたが、性善説に基づいた貧弱な危機管理制度であったため、ギリシャの嘘の財政赤字申告を罰することができず、さらに、財政の国家主権の壁も立ちはだかっています。

 しかし、すでに3億3000万人がユーロを通貨として使用しており、国際社会においてもユーロは米ドルに次ぐ取引量となっており、万が一ユーロ解体となれば大恐慌となることは、ドイツにおいても理解されています。

 ただ、信じられないようなばかばかしい話ですが、ギリシャが、大恐慌を盾に開き直った交渉をドイツとフランスに対してしたことが、混乱をさらに長引かせて大きくてしまい、長期金利を急騰させてしまいました。

 この本のその後の状況をみると、ヨーロッパの経済が安定し、ユーロが回復するにはかなりの時間を要すると思われます。

 ユーロについて、しっかりした知識を持つことは大切だと思います。読みやすく、理解しやすい本なので、読まれることをお勧めします。