2012/05/19

日本はなぜ敗れるのか ―敗因21カ条

18日は京都までは電車で行きました。往復に3冊の本を読んでいます。

1冊目は、山本七平著「日本はなぜ敗れるのか ―敗因21カ条」を読みました。
「過去を正しく分析しなければ、現在の出来事を正しく見ることはできない」とはチャーチルの言葉ですが、現在の出来事を正しく見ることができないということは、未来を見誤ることでもあると思います。この本は正しく見るために読んだほうが良い本の1冊だと思います。

著者は、陸軍の下級士官として第二次大戦で戦い、終戦後フィリピンで捕虜収容所生活を体験されています。この本では、自身の体験も含交えながら、ガソリンが枯渇するなかでサトウキビから代替燃料ブタノールを精製するために陸軍の技術者として昭和19年1月にフィリピンに派遣された小松真一氏が、終戦後、捕虜収容所で書き、骨壺に入れて日本に持ち帰った「虜人日記」と、そのなかで小松氏が掲げた敗因21カ条をもとに、本書「日本はなぜ敗れるのか」を書いています。

本書のタイトルが、なぜ敗れたのかではなく、なぜ敗れるのかであることに、著者が日本が勝てる見込みのなかった太平洋戦争に戦争に突入し敗れたけれど、戦後も希望的観測で物事を進めようとすることなど日本社会が本質的に全く変わっていないことに対して警鐘を鳴らされていることが分かります。

著者が小松氏の「虜人日記」をもとにこの本を書かれたのは、小松氏が軍人ではなく技術者として戦地に派遣されていたので、軍の名誉とか上官や部下などに気兼ねする必要がなく、結果的に軍を客観的に見て書くことができていたことが大きな理由であり、敗因21カ条もその視点で評価されています。

小松氏の敗因21カ条です。

1.精兵主義の軍隊に精兵がいなかったこと。然るに作戦その他で兵に要求されることは、総て精兵でなければできない仕事ばかりだった。武器も与えずに。米国は物量に物言わせ、未訓練兵でもできる作戦をやっていた。
2.物量、物資、資源、総て米国に比べ問題にならなかった。
3.日本の不合理性、米国の合理性。
4.将兵の素質低下(精兵は満州、支那事変と緒戦で大部分は死んでしまった)
5.精神的に弱かった(一枚看板の大和魂も戦い不利となるとさっぱり威力なし)
6.日本の学問は実用化せず、米国の学問は実用化する
7.基礎科学の研究をしなかった事
8.電波兵器の劣等(物理学貧弱)
9.克己心の欠如
10.反省力なきこと
11.個人としての修養をしていない事
12.陸海軍の不協力
13.独りよがりで同情心が無い事
14.兵器の劣悪を自覚し、負け癖がついた事
15.バアーシー海峡の損害と、戦意喪失
16.思想的に徹底したものがなかったこと
17.国民が戦いに厭きていた
18.日本文化の確立なき為
19.日本は人命を粗末にし、米国は大切にした
20.日本文化に普遍性なき為
21.指導者に生物学的常識がなかった事

日本は精兵主義で、職人技で体得した兵士でないと扱えない兵器で、しかも、敵が見えないジャングル戦での使用が考慮されていませんが、アメリカは新兵が簡単に扱えるように兵器が設計されており、戦場の状況に対応した兵器があります。

日本軍はあまりに兵士の命を粗末にするので、終いには上の命令を聞いたら命はないと兵士が気づいてしまっているのに、なお機械的に繰り返し続け、自己正当化するのみで、可能な新しい方法を試みるなどの行為には敗北主義のレッテルを張るので、士気は上がりません。

長期戦を呼号していた日本軍には長期戦に耐える準備は何もなく、食料を奪うなど、現地人を敵に回してしまいますが、短期のゲリラ戦を想定していたアメリカ軍の方が山岳地に自給のための畑をつくり何年も耐えうる準備をしており、彼我の差を痛烈に感じます。

日本軍は外面的組織ではすべてが合理的に構成されていて、組織に位置づけられないものは、必要であっても原則として存在しない。しかし、そんなことはあり得ないわけで、全ての組織が現実には不合理性を持ってしまいます。

「生物学的常識」という条項は奇異な印象を受けますが、要は兵士といえども生身の人間であり、食料が必要である、ということなのですね。生物学的な生存の条件が満足されなくては軍隊という組織を維持することができないということが考慮されていません。

組織の外面的な合理性ゆえに、ひとたび無能な人物が重要なポジションに付くと、実行可能性を判断することなく、指示を下へ流します。上から流れてきた指示は実行されなくてはならず、部下が実行可能性に疑問を唱えたところで、耳を傾けることはありません。

組織がひとたびこのような状態に陥った場合、見掛けの上では粛々と運営されているかにみえる組織も、現実と建前が遊離し、実態はぼろぼろであるということにもなりかねません。まさにそういう状況に陥ったのが太平洋戦争の際の日本軍であった、ということです。

このことは、今日の経営組織全般にも当てはまるケースが多いように、わたしには思われます。形式重視の組織形態は、物事が予定通り進んでいる場合は、内部に少々の問題を抱えていたところでうまく運営できるのですが、ひとたび齟齬が生じると、これへの対応がうまくできないことになります。経済危機や大震災への対応も、同じことが繰り返されているように思います。

また、きわめて個人的な体験と絡んだことですが、164ページに卑怯者という見出しで、「卑怯者は危険が近づけば必ず病気になる。」という記述があり、勇敢な者が死ぬ確率が多くなる理由とされていました。最近の自分の体験がオーバーラップし、言わんとしていることに深く納得させられてしまいました。

まだまだたくさん書きたいこともありますが、まずこの本を読んでください。