三が日に読んだ3冊目は、マイケル・スペンス著「マルチスピード化する世界のなかで」でした。著者のマイケル・スペンス氏は、2001年にジョージ・アカロフとジョセフ・E・スティグリッツと共に、情報が浸透し、市場が発達する動学性に関する業績によってノーベル経済学賞を受賞しています。
本書は、第1部 世界経済と途上国、第2部 途上国世界における持続的高成長、第3部 世界危機とその余波、第4部 成長のゆくえ、の4部から構成されており、第2次大戦後の1950年頃からの世界の経済変化を多極的に描いています。
データを用いて、客観的に書かれており、1950年代の日本を含む新興国の成長が、解放された市場があるからこそ成り立っていたことがよくわかります。世界市場にアクセスできない国は成長できていません。
中国も、鄧小平をはじめとする改革者たちが中国の方向性を変えようと決意し、まず、農業部門で市場メカニズムを機能させています。自由市場で販売することを認めただけで、計画経済による割り当てではできなかった生産量や所得の大幅な上昇に成功しています。そして、世界銀行に市場経済運営のノウハウを求め、市場経済をハイペースで学習してから門戸を開放して、その後急速に経済成長を続けています。
また、一例として、ブラジル経済の経緯が述べられています。ブラジルは日本と同じように1950年ごろから年率7%以上の経済成長がはじまり、25年続きましたが、政策が内向きになり、世界経済と断絶し、成長を持続するために国内生産(輸入代替)に力を入れましたが、コスト上昇と生産性の低下を招き、複数回にわたる有害なハイパーインフレを起こしています。
北欧の政策もそうですが、現にある雇用を守るのではなく国民を守る考え方が重要であり、高成長国では変化を促す政策を政府が積極的に採用しています。
賃金が上昇すると、労働集約的産業は国際競争力を失い低賃金国に移転していきます。しかし、これまで雇用を創出し、維持してきた産業が縮小することを恐れて、保護政策を取った国では、ブラジルのように中所得国から高所得国への成長に失敗しています。
成長を続けている韓国や台湾は、危機に対応して果敢に構造変化を促進する政策を断行することにより、持続的な高成長をしていますが、日本は、内需拡大を言いだして内向きになったころからおかしくなり、低成長の国になっています。
本書を読むと、日本が停滞を続けてきたのは、制度改革を経済の環境変化に対応して行ってこなかったからであり、既得権益だけが守られている限り、今後も衰退が続くことが見えてきます。
読みやすい本なので、広い視野を持つために読まれることをお勧めします。