2012/06/10

虜人日記

小松真一著「虜人日記」は、5月19日書いた山本七平著「日本はなぜ敗れるのか ―敗因21カ条」の執筆のもととなっている本であり、台東製糖の技術者であった小松氏が、ガソリンが枯渇するなかでサトウキビから代替燃料ブタノールを精製するために、陸軍の技術者としてフィリピンに派遣された時から、終戦後捕虜となり、日本に帰国するまでが書かれています。

小松氏は、陸軍の技術者(文官)として、フィリピンで武器も弾薬も食料もないなかで、九死に一生を得て何とか生き延びますが、極限状態でのむごさや、追い詰められた人間の無残な状況も冷静に書かれています。

しかし、この極限状態に追い込んだのは、日本はなぜ敗れるのか ―敗因21カ条にも書かれているように、組織のあり方や思想、精神性などの問題があります。

極限状態が続けば、精神的な強さ、個人としての人間的修養のあるなしなど人間本来の性格が出ます。部下の傷病兵に自決を強いて、逃げ回るような部隊の兵は、命令に従って負傷でもしたら大変と、敵が来れば一発も撃たずに逃げてしまいますが、傷病兵をよくいたわり、最後まで世話を見るような部隊は、敵とよく戦い、強い部隊と称賛されています。ここでの部隊の組織力は、トップの人格力であり、人格のないものがトップにいたら、組織は本来の機能を失います。

弱者を切り捨てるようでは、信頼も規律も保たれません。

また、終戦後の捕虜収容所での、アメリカ兵と日本兵の比較検証から、思想的な日本人の弱さ、計算や文字を書くことなどの教育程度は日本人が高いが、公衆道徳や教養が低いことも敗因としています。

失敗を繰り返さないために太平洋戦争から学ぶことが必要です。「虜人日記」は戦争の記録としての読み物ではなく、日本人の弱点や、日本社会の課題を深く考えさせられます。