2011/07/08

イノベーションのジレンマ(MDウオークマンの出荷終了に思うこと)


 昨年春のカセットタイプのウオークマンに続き、MDウオークマンも9月末で出荷終了とのニュースを見ました。アップルのiPodの登場以来、内蔵メモリータイプが主力となり、ディスクタイプが消えていくのは時間の問題だろうと思っていました。

 しかし、本来ならソニーがつくるべきであったといわれたiPodでしたが、ソニーの実績とともに積み重ねられた技術力がMDの圧縮規格の追求に進み、画期的な想像力による開発の余地を他へ追いやってしまったことは残念です。

 電車の中で読んだ本 (追記)で触れた 「イノベーションとジレンマ」を読めば、なぜソニーがiPodを開発できなかったが理解できます。
 この本の帯に、ソニー会長兼CEO出井伸之氏(出版当時)の推薦の言葉があります。「変革の時代、過去の成功体験こそが企業自己変革の足枷となる。この困難を克服するためのヒントがここにある。」・・・・・しかし、ソニーも成功体験のジレンマのなかにあったと思います。

 60年代から80年代にかけて、日本が世界市場で成功した理由は欧米市場の低品質、低価格の分野に競合企業破壊的技術を持って攻め込み、その後上位の分野へ高品質化とともに移行していったことにあります。

 成功体験とともに培われた高品質・高付加価値の追求が、かつての日本と同じような新興国から低品質、低価格の分野に競合企業破壊的技術を持って攻め込まれ、その後の猛追により日本企業の衰退を招いています。

 技術革新が激しい全ての業界において、優良企業が衰退していくのには共通のパターンがあることが様々な実例をもとに証明されています。

 優良企業の衰退は既存の顧客の声に耳を傾け,既存製品・技術の改良を行い,さらなるシェア向上を目指す「持続的インベーション」に集中してしまうことに原因があり、「革新的技術によるイノベーション」が生まれたとしても、そのことが既存のビジネスモデルを破壊するものであり、当たり前のことですが、量産している既存技術の方がコストパフォーマンスが良いため、成功体験におぼれた優良企業ほど革新を受け入れることができなくなります。

 そのため「破壊的(革新的技術による)イノベーション」は既得権益を持たないベンチャー企業の登場により普及することほうがほとんどであり、一方の優良企業は、消費者が求めていない不要な機能までも「持続的イノベーション」により供給し続け、「破壊的イノベーション」に主役の座を奪われる結果となります。
 ソニーのウオークマンは「イノベーションのジレンマ」に絵に描いたように当てはまります。

 ウオークマンはヒットともに改良を続け多機能化していきましたが、機能を使いこなすには分厚い説明書を理解しなければならず、そもそも、多くの人が必要とするわけではないマニアックな機能が満載で、その不要な多機能の付加価値で価格形成をしており、供給サイドの都合が優先される体質の商品になっていました。

 しかし、後発のアップルが携帯音楽プレーヤー市場に投入したiPodのシンプルで斬新な機能は、あっという間に多くの消費者の心をとらえ、携帯音楽プレーヤーは内蔵メモリータイプの時代になっています。iPodでは消費者(需要サイド)の思いに素朴にフィットしたものが提供されています。ソニーは優秀な技術集団であるからこそ顧客の声を熱心に聴いて改良し続け、既存の技術の究極を目指したのですが、そのことが新たな技術への感度を鈍くし、顧客以外の素朴な消費者の思いを分からなくさせてしまったのです。

 博報堂が2002年に日米英三カ国で実施した「メイド・イン・ジャパンのブランド力」調査http://www.hakuhodo.co.jp/pdf/2002/20020603.pdfによると、日本人が思うほど、ブランド力が高くないことが分かります。日本は、もっと情報を重視し、思い込みで考えるのではなく、現実を知る努力が必要です。

 現実が把握できていなければ、対応は不可能です。このことは行政も同じです。