2012/05/20

絶対指標ではない幸福度、既得権益者を利する恐れも

日経ビジネスに、「絶対指標ではない幸福度、既得権益者を利する恐れも~大竹文雄・大阪大学社会経済研究所教授に聞く」という記事がありました。京丹後市の幸福度の指標の考え方に疑義を持っている(他に優先すべきことがあると思っている)ので一部を引用します。

以下引用・・・・・・・・

―― ブータン国王が昨年、来日しました。同時にブータンのGNH(国民総幸福度)が注目を浴びました。ではブータンのような暮らしを日本人がすれば幸せになれるのか、という疑問をよく聞きました。

大竹:幸福度の計測には、たくさん問題がありますので、指標として単体で使うというのはとても危険だと思います。それだけを目標にするというのはもっと危険で、変な再分配がいっぱい起こり得ます。

 例えば日本では、中高年の自殺が多いですね。リストラされて、あるいは商売に失敗して自殺する人で、今、年齢的に一番多いのが中高年です。若い人たちの方が低所得で非正規社員の比率が高いという問題があっても、彼らの自殺率は低いです。実は、幸福度も若い人たちの方が高いのです。

では、低所得の若者からかわいそうな中高年に所得を再分配すればいいのか。実際にそうなっているのです。年金の仕組み、つまり若い人の払った保険料で引退した人の生活費を賄うというのは、結局そういうことをやっているわけです。ですから幸福度をもとに再分配政策を行うとすると、年金の世代間格差を放置するのは、正しい政策ということになります。

―― なるほど。幸福度指標から判断すると正しいと。それは変な話です。

大竹GNHだけで何か政策を決めるのは無理でしょう。幸福度の測り方をうまく設計すればできるのかもしれませんが、たぶん限界があると思います。一番簡単なのは、あなたは全体でどのぐらい幸福ですかと聞く設問です。また今日1日にどんな活動をしたか、それぞれについてどのぐらい幸福度を感じたかというのを逐一チェックすればもう少し正確だということで、そうした計測方法を開発したのがノーベル賞経済学者・心理学者のダニエル・カーネマン米プリンストン大学教授です。
しかし、それでも問題が出てきます。人間の幸福感には、現在置かれている状況にだんだん慣れていくとか、周囲にいる他人との比較に左右されるという特長があります。それから、聞かれたらつらいと答えるが、本当はうれしいという感情もありますよね。例えば、子育てをしている最中というのは、もう寝られないしとてもしんどい。

―― 確かにしんどいです。

大竹:聞かれたらそう答えますよね。けれど、基本的には楽しいはずですね、子育ては。だからこそ子どもを持ったのですから。そういう感情もうまく反映できないところがあります。測れないものはたくさんあるのです。答えにくい部分もあるでしょうし。
 ですから経済学者が言う、意思決定のベースとなる効用、満足度をもたらすものは、単にどれだけのものを買ったとか、消費したかという行動だけでは判断がつかないのは当然です。

―― 制度の変更が幸福度にどのように影響するかも、重要なテーマですね。

大竹:現在の雇用システムから違う雇用システムになった方が、みんな幸せになるかもしれない。けれども、今の制度で皆が最適化しているから、制度が変わったら不幸になる人が大勢出ます。一方、解雇や転職が簡単になったら幸福になる人もいる。
 一生懸命、つらいながらも最適化行動を取ってきて、嫌な仕事に慣れた、あるいは結婚後に夫と趣味を合わせたと言う人も大勢いる。せっかくここまでやってきたのに、明日からクビを切られる、あるいは離婚することになった、などと環境が変わったらみんな困るでしょう。でもこれから結婚しようとか、会社に入ろうという人にとっては、つらくなったら離婚できる方がいい、あるいはつらくなったら簡単に転職できる方がいいと言うかもしれない。

―― 様々な経緯を経て現状がある。諦めたこともあるでしょう。その中で幸福感の水準を自分で設定してきたのに、いきなりこっちがいいからこうしましょうと言ったら…

大竹:極端な場合は自殺する人だって出てくるかもしれません。経済学者は、第1にどちらが一番理想的かと考えます。しかし現実には、現状に最適化した人たちが大勢いる。この人たちは悪くいうと既得権者です。しかしそこに現実的な問題があります。その人たちは、新しいシステムに変わった途端に不幸になりますからね。


他にカナダの調査会社と中国の調査による幸福度についての記事を引用します。

幸福度1位はフィジー 加調査会社、日本は中程度
2011.12.31 17:52
 カナダの世論調査会社「レジェ・マーケティング」は30日、世界各国で幸せと感じる人が不幸と感じる人をどれくらい上回るかを比較した調査結果を発表、1位は南太平洋の島国フィジー、2位はアフリカのナイジェリアだった。最下位は東欧のルーマニア。

 平均所得が低い国が高い国を上回る例も多くみられ、同社は「幸福感は、どれだけお金を持っているかではなく、個人が社会で享受する相対的地位によって決まる」と指摘している。今回の調査によって、文化、年齢、宗教などが幸福感に違いをもたらすことがわかった。財政危機に見舞われているスペインも、国民はこれを楽観的に受け止めており、幸福指数は55となった。東日本大震災を経験した日本の幸福指数は47と、カナダと同程度となった。

 調査は2011年11~12月、58カ国の男女5万2913人に対面、電話、インターネットで実施。「幸福に感じる」人の比率から「不幸」の比率を差し引いた「純粋幸福度」で比べた。1位のフィジーは85、最下位のルーマニアはマイナス10だった。その他は、日本47、南スーダン46、アフガニスタン35、米国33、中国25など。世界平均は40だった。(共同)

 中国家庭における幸福感に関する調査研究報告
20111226日、中国社会科学院などが共同でこのほど発表した「中国家庭における幸福感に関する調査研究報告」で、およそ7割の家庭が「わりと幸せ」と感じていることがわかった。幸福の条件は家族の心身の健康と、隣人との良好な関係にあるという。北京晨報の報道。

調査では「家族が心身ともに健康」「両親と仲が良い」「隣人と良好な関係を築いている」と回答した家庭はより幸福感を感じている傾向が見られた。興味深いのは、収入の増加が幸福感に直結するとは限らないとの結果が出たこと。中流層のほうが富裕層よりも幸福と感じている世帯が多かった。

親子での交流時間が長ければ長いほど幸福感は増し、隣人と一切関わりをもたないよりも近しくしていたほうが、安心感という幸福が得られる。最も家庭における幸福を感じている年齢層は3034歳、男性より女性のほうが多かった。

反対に、幸せでないと感じている人々の「不幸の原因」は、「義父母との不和」「夫婦間のコミュニケーション不全」「仕事のプレッシャー」という結果が出た。(翻訳・編集/愛玉
)