農業・農山村の存立と農家の経営基盤の強化のための施策を求める意見書(案)
農業・農山村は、食料を安定的に供給する重要な機能に加え、水源のかん養、国土保全、農業の営みを通じて形成される美しい景観維持などの多面的な機能を有し、農山村の住民のみでなく、全ての国民がその恩恵を享受してきたところである。
しかしながら、1960年からの50年間で、GDP(国内総生産)に占める農業生産は9.0%から1.0%へ、農業就業人口は1196万人から252万人へ、食料自給率は79%から41%へ、いずれも減少しており、65歳以上の高齢農業者の比率は1割から6割へ上昇し、農外所得(兼業所得)の比重の多い第2種兼業農家の割合も32.1%から61.7%へと増加しており、本市においても同様の傾向にある。一方で、減反政策が導入されるまで増加してきた水田は減反開始後一転して減少し、100万haの水田が消滅し、減反面積も今では100万haと水田全体の4割に達しており、500万t相当の米を減産する一方、700万t超の麦を輸入するという食料自給率向上との矛盾が生じているのが現状である。
これまで、輸入数量制限や米の778%という関税に代表される高い関税で国内農産物市場は外国産農産物から守られてきたにもかかわらず、農業が衰退しているということは、その原因が海外だけではなく国内にもあるということを意味しており、実際に米の一人当たりの消費量は過去40年間で半減している。米価はこの10年間で30%以上も低下したが、これは減反を強化しても米消費の減少に追いつかなかったからでもある。平時には農業生産は需要・消費に規定される。需要がないものは減反して生産しても市場が消化できないことからその他の施策も考慮すべきである。
今後高齢化、人口減少時代を迎え、米の総消費量はさらに減少し、2050年頃にはコメの総消費量は今の半分になると予想され、長期的な米価の下落は避けられない。農業経営の安定及び強化を図るためには、米以外の他の農作物への戸別所得補償の実施、担い手への農地集積の推進等も重要であり、その取組を求める意見や、国外の消費需要に対応する取組の強化を求める意見もあるところである。
すでに1980年代以降、アメリカやEUは農家への直接支払いとともに価格を引き下げて国際競争力をつけており、カリフォルニア米の生産や輸出も多額の補助金によって支えられ、EUの農家も、条件を満足していれば、価格を引き下げた代償としての単一支払いという直接支払い、環境直接支払い、条件不利地域直接支払いの3つの直接支払いを受領しており、価格支持から直接支払いへの転換で農業が保護されている。
他国を見ても食料自給は減反と相容れないものであり、農業関係者が唱える多面的機能の主張も、そのほとんどは水田の機能であるのに、減反によって水田を水田でなくしてしまう政策が採り続けられ、同時並行した林業の衰退と生活の変化による里山の荒廃と耕作放棄地の増加が有害鳥獣の増加と拡散を招き、そのことがさらなる耕作放棄地の増加をもたらすという悪循環のなか、農産物価格の低迷などにより、日本の農業や農村集落機能が崩壊する恐れも生じる非常に厳しい状況にあり、これらを勘案した農家への直接支払いである総合的な戸別所得補償制度の創設は喫緊の課題である。
また、近年、世界の農業を取り巻く状況は、人口増加、新興国等における農産物の需要増や気候変動による干ばつの影響等により、世界の食料需給情勢は不安定化の傾向を強めており、中長期的にひっ迫基調が見込まれ、わが国の食料安全保障のあり方が問われ、急務の課題となっている。
一方、政府においては、昨年3月に閣議決定した「新たな食料・農業・農村基本計画」において、食料・農業・農村政策を国家戦略の一つとして位置付け、食料自給率目標の実現に向けた政策を重点的・効率的に実施し、国際交渉への対応については国内農業・農村の振興を損なうようなことは行わないことを基本に取り組むこととしている。
こうしたなか、政府は昨年11月には、「包括的経済連携に関する基本方針」を閣議決定し、例外なき関税撤廃を原則とする「環太平洋連携協定(TPP)」については、情報収集を進めながら対応していく必要があり、国内の環境整備を早急に進めるとともに、関係国との協議を開始するとしているが、これは、EPA・FTA交渉で重要品目を例外扱いしてきたことやWTO農業交渉において、多様な農業の共存を訴えてきたことを否定するものである。
こうしたなか、政府は昨年11月には、「包括的経済連携に関する基本方針」を閣議決定し、例外なき関税撤廃を原則とする「環太平洋連携協定(TPP)」については、情報収集を進めながら対応していく必要があり、国内の環境整備を早急に進めるとともに、関係国との協議を開始するとしているが、これは、EPA・FTA交渉で重要品目を例外扱いしてきたことやWTO農業交渉において、多様な農業の共存を訴えてきたことを否定するものである。
TPPは関税撤廃を原則としており、農業関係者からは、今回の決定はこれまでの政府方針を大きく踏み出すもので、農業と農村が大きな打撃を受けることが強く懸念され、我が国農業の将来への不安の声が上がっているが、一方で、世界市場での貿易自由化の流れは加速しており、すでに韓国は貿易総額に占めるFTA締結国・地域の割合が61.1%と日本を大きく引き離し、世界の3大貿易圏を韓国勢が席巻する勢いにある。韓国と同様に資源が少ない我が国において、関係国との経済連携を検討し、推進することは極めて重要であり、その際には、貿易自由化に向けてアメリカ・EU・韓国などと同様に、農業政策において多様で豊かな地域の農業が、将来にわたって持続・発展できるような万全の措置を事前に講じることが、何よりも重要である。
よって、国におかれては、希望を持ち安心して農業に従事でき、食の安全・安定的な供給、食料自給率の向上、農業・農山村の振興に対する実効ある具体策の確立に向けて、生産現場の意見を十分踏まえ、万全な政策を講じるよう下記事項を添えて強く要望する。
Ⅰ.WTO交渉に沿った自由貿易交渉の推進と国内農業対策
1 貿易立国である日本の経済を考えると、自由貿易の推進は避けられないが、FTA・EPAの交渉が行き詰まるなか、さらに制限の厳しいTPPへの交渉、参加の表明が現実的であるとは考えられない。農業への開放前対策をしっかり行うとともに、まずFTA・EPA交渉を推進すること。
Ⅱ.農業・農村の持つ潜在生産力の最大限発揮
1 新たな食料・農業・農村基本計画の具体化に当たり、食料安全保障の観点からの食料自給率の向上(安定供給)と多面的機能の維持、6次産業化に向けて、農業の潜在生産力を最大限に発揮できるよう、総合的な生産振興及び経営安定政策を講ずること。
(1) 生産者努力が報われるよう多様な用途・需要に応じた万全な販路確保対策や地場産業(食品加工など)の振興対策を講じるなど円滑かつ確実に生産・流通が実現できる政策体系を構築すること。
(2) 条件不利地域対策については、平成22年度より中山間地域等直接支払制度による第3期対策がスタートしている。本制度により、耕作放棄地の発生防止、集落・地域活動の活性化、国土保全など多面的機能の維持、生産性・収益向上等に大きな成果を発揮しており、実施期間終了をもって制度が打ち切られた場合、農業生産活動や地域社会の維持に重大な支障をきたすことが懸念されるため、永続的な条件不利地対策制度を創設すること。
(3) 有害鳥獣対策については、平成23年度限りの緊急対策として予算額の大幅な増額がなされたところであるが、森林・里山の環境整備、根本的な有害鳥獣個体数の大幅な減少がない限り、引き続き有害鳥獣の出現は避けられないところである。平成24年度以降も農業・農村の実情を踏まえ、国の責務として総合的な鳥獣被害防止対策を強力に推進し、森林・里山整備などを含めた対策事業費についても大幅に減額することなく、財源を確保すること。
Ⅲ.総合的な戸別所得補償制度の創設について
1 地域の土地条件を踏まえた持続可能な農業を実現するために、多様な農作物を対象とし、かつ、果樹、畜産などの多様な農業を支援する政策体系を構築するなど、農家の経営基盤を強化する施策を充実するとともに、永続的で必要かつ総合的な戸別所得補償制度を創設すること。
2 農地が果たしている国土・環境の保全などの多面的機能に対し、耕作する全ての農地の面積に応じてその対価を直接支払う制度「国土・環境保全支払」を創設すること。
3 畑作物や果樹などの所得補償制度として、生産現場の実態に即した適正な販売価格(農家手取価格水準)と生産費用(家族労働費の評価替えなど生産コストの適正化)との差額を補填する直接支払「作物別数量支払」を行うこと。
また、生産者の努力が報われるよう自給率向上や良品質生産などに対する加算措 置を講ずること。
4 現行の土地利用型作物を基本とする畑作農業に新たな戦略的作物を導入して輪作年数を伸ばすなど、地域の土地条件に即した適正な輪作体系を確立するための支援策を創設すること。
5 減化学肥料・減農薬栽培や耕畜連携による堆肥の投入、地域有機資源の活用、緑肥など地力増進作物の作付けなどに対する支援措置を講じ、自然循環型農業に対して直接支払制度を創設すること。
また、風力・太陽光など自然エネルギー、地域資源バイオマスの振興と農業への活用などに対する支援策を講ずること。
6 農地・水・環境保全向上対策の環境保全型農業支援対策については、地域の土地条件などを踏まえた単価の引上げなど制度改善を図ること。
Ⅳ.農村振興政策の確立について
1 農業の支援につながる地域資源の保全、就業機会の拡大など、市町村が自主・自立の地域農政が行える支援策(交付金制度)を講じること。
Ⅴ.十分な国庫財源の確保について
1 持続可能な農業の確立に向けて、国の責任として、必要かつ十分な国庫財源の安定的な確保を図ること。