2011/10/15

魚が食べれなくなる~無策の日本漁業(電車の中で読んだ本)

 東京での研修に参加するための電車のなかで読んだ本を紹介します。
決算審査でも気になったのですが、京丹後市の漁業の水揚げ高は昭和の終わりから平成10年にかけて15億円台であったのが、漁獲量の減少と魚価の低迷により10億円台になっています。

 この漁獲量減少の背景である漁業資源についてや、漁獲量が減っているのに魚価が下がるということは輸入の増加が推測されるので、漁業をめぐる世界の情勢を知るために、勝川俊雄著「日本の魚は大丈夫か」(NHK出版新書)を読んで大変参考になりました。それで、他の本も読んで考え方を確認するためと、より広く知るために海(漁業)に関する本を読んでいます。


 海洋の食物連鎖の頂点にクジラがあります。「宮本常一とクジラ」は、昔の日本の漁業を知ることと、著者の小松氏の考えを知るために買いました。今では考えられないことですが、宮本常一が漁民や漁村地域の調査研究を行った結果、江戸・明治時代には魚の群れを追ってクジラが各地で入り江に入り、捕鯨がおこなわれていたことが分かっています。

 特に、五島列島のなかの有川湾では、毎年30頭から80頭のクジラが捕れ、沿岸捕鯨のピーク時には、他地域から専任者捕鯨関係の出稼ぎ集団が移入し、有川の村の人口は約3000人を超え、産業都市を形成していたようです。

 また、壱岐と対馬でも、捕鯨のための鯨組が乱立していました。尾張藩では、捕鯨を奨励していたなど、古くは1570年頃から、三河、伊勢、志摩での捕鯨の記録があります。

 そして、もっとも悲惨な漁村として、佐合島が描かれています。かつては600人を超える島民がいたのが、魚が取れなくなり、50人を切っています。

 明治の中頃には、沿岸でのクジラ漁は出来なくなっています。クジラの餌であるイワシやサバを乱獲したために、餌が無くなったクジラは姿を消してしまいました。

 ここで間違えてはならないことは、餌となる魚が先に減少していることです。捕鯨に関わっていた漁民は、沿岸での捕鯨ができなくなったので、遠洋捕鯨に乗り出していきます。この流れは日本の漁業全体の流れと同じです。クジラと同じく、魚が近くにいなくなったら、魚がいるところまで獲りにいっています。

 宮城県の村井知事は、漁業復興のためには民間企業の力を借りる必要があるとして、水産業復興特区を打ち出しました。しかし、県漁協は「民間参入を許せば、これまでの安定的な漁業管理が難しくなり生産意欲の減退につながる」などと反発し、その後、水産業復興特区構想への反発は、地元の漁協だけに留まることなく、全国へ広がりました。そして、7月1日には全漁連が都内で記者会見を開き、特区構想は「大きな混乱を招く」と反対を表明しました。

 「日本の魚は大丈夫か」、「これから食えなくなる魚」を読んだ後では、水産業復興特区で東北の(そして日本の)漁業が再生できるとはとても思えませんが、この構想をきっかけとして、日本漁業の現況が理解されることを期待しています。

 日本漁獲・養殖生産量は、ピークの1984年には1280万トンあったのが、2008年には546万トンまで減少しています。

 しかし、世界でみると全く違ったことが見えてきます。世界の漁獲・養殖生産量は1950年には2000万トンでしたが、2008年には、1億5911万トンまで増加しています。日本は1984年から生産量を減らしていますが、輸入量は激増しています。

 この間に、日本は240円から100円台の2倍以上の円高になりました。海外から見れば、東洋の小さな島国のための漁業が商売として成り立つようになったのです。日本人は日本に輸出する相手方の収入が一挙に倍になり、これまで経営的に成り立たなかったものまでが成り立つようになり、障壁・経済摩擦となっていく円高の怖さを理解していなかったのです。そして、徐々にですが、魚を食べる習慣までもが世界に広がりました。(世界に市場ができたのに、なぜ、輸出型漁業に転換し成長する方向を選べなかったのか?この背後にも円高の影があります。)

 2冊を読むまでは、なぜ、世界第3位という長い海岸線を持つ日本の漁業がこんなに衰退してしまっていたのかを、深く知ることもなく、あまり考えなかったのですが、世界の国々は、財政破綻が懸念されているEUを含めて、水産予算の約9割が漁船や漁船関連に使われて、水産業の生産性の向上が続いています。

 具体的には、日本の水産予算は2600億円程度であり、、アメリカは3000億円、EUは5000億円ですが、日本の水産予算の内、漁船とシステム改善に回される予算はたった50億円です。つまり、漁船や漁船関連の予算は、日本は50億円ですが、アメリカは2700億円、EUは4500億円となります。ですから、例えばノルウェーでは漁業が輸出産業として成長し、若者に就業機会を与えるまでになっています。

 しかし、残念なことに、日本では、水産予算の約6割は漁港等基盤整備に使われていますが、若者に就業機会を与えるほどの水産業の成長はなく、参入障壁や既得権、乱獲などで水産資源の適切な管理もできていません。

 そして、養殖においても、餌を国産でまかなうことは出来ていません。餌の輸入依存率は80%を超えており、食糧自給率計算での肉や卵の扱いと同じ考え方でみると、餌が国産でないから自給率にカウントされない輸入物ということになります。

 この本を読む限り、水産資源に関して大切なことが国民に伝わっていないと感じました。特に、著者が元水産庁の官僚であるだけに、日本政府の水産業への無策を痛感しました。日本は、世界有数の海洋面積を持つ国です。世界と同じ土俵で国が主導的な役割を果たすとともに、その海の資源である魚や漁業関係者を長期的な視野で育成する必要があります。このままでは、高くて魚が食べれなくなる日が来ます。