2011/12/21

昔の日本軍の悪しき根性主義から一番きちんと脱却していた役所が、なんと自衛隊だった


 官僚機構における縦割りの弊害や危機管理の欠如など、太平洋戦争での敗戦を受けて反省され、改革されるべきであったことが、何も変わらないどころか、ひどくなっていることは、現職官僚が書いた本などからも広く知られています。

 京丹後市においても、行政は縦割りであり、全体のマネジメントは出来ていないと考えていますが、日経ビジネスの記事に、震災直後の対策本部にばらばらの省庁から集まってきた官僚をチームとしてまとめ、各省の利害対立を抑えて機能させたのは若い自衛隊員だったという話が出ていました。日経ビジネスの「御厨貴・東京大学先端科学技術研究センター教授に聞く』から引用します。

 以下引用・・・・・

御厨:こんな話があります。僕のゼミ出身者の若手官僚が、震災直後から、首相官邸の地下の対策本部に放り込まれました。20代の官僚たちが各省庁から集められて、被災地対応をすることになった。震災対応という緊急事態に、ばらばらの省庁から集まった官僚たちをチームとして機能させるのは実はとっても難しい。「いったい誰がどうやってチームを指揮したの?」と彼に質問したら、「自衛隊から来た人です」というんです。

池上:自衛隊の人が、現役官僚たちを指揮、ですか?

御厨:はい。現場作業を担う自衛隊の若い人間がやってきて、決して威張らずに、「まず最初に何をやらないかいけないか決めて、何をするのかすぐにチーム分けをしましょう」と先頭に立って、指示を出し始めた。おかげで、財務省から経産省から国交省から総務省から、各省庁から送り込まれた文官の諸君は、自衛隊の若手の指示に従って、震災対応の作業をすぐにスタートできたそうなんです。

池上:すごい話ですね(笑)

御厨:震災対策本部では時として各省の利害が対立するシーンが出てくる。そんなときに間に立つのが自衛隊の若手だったそうなんです。で、その自衛隊の若手が対立している官僚たちにこう言うんだそうです。「日本が第二次世界大戦でなぜ負けたかご存知ですか。資材をどう分けるかを巡って、陸軍と海軍がケンカをし始めたからダメになったんです。だからみなさん、それを思い出して、官僚同士が足の引っ張り合いをしないようにしましょう」と。

池上:第二次世界大戦での軍部をはじめとする日本の縦割り官僚制度の失敗を、自衛隊の若手たちはちゃんと学んでいるわけですね。被災地での自衛隊の活躍ぶりは、今回たくさん報道されていましたが、裏にチームマネジメントができる自衛隊の能力があったんですね。

御厨:もうひとつ、自衛隊のマネジメント力を象徴する話があります。震災対応のような非常事態の最中で仕事をしていると、いわゆる「働き蜂症候群」になって、みんな寝ずに仕事をし続けてしまう。特に日本の官僚はその傾向が強い。調子がどんどん悪くなっていっているのに、机から絶対に離れないと粘る人間も出てくるわけです。今回の震災の対策本部でも同じような状況が起きた。すると、自衛隊の若手が命令するわけです。「すぐに隣の仮眠室に行って寝てください」と。命令された官僚が、「私はまだ大丈夫です、頑張ります」とみんな反論する。と、自衛官が官僚たちを一喝したそうです。「大丈夫じゃない! いま、あなたが倒れたら、次にやってくれる人がいるとは限らないんだ。非常事態だからこそ休まなきゃダメだ。今はとにかく寝て、それから戻ってきなさい」と。結局、彼の一喝で、みんなが寝たそうです。非常事態だからこそ、チームの人員は無理してはいけない。順番に仮眠室で寝て戻るサイクルをつくって、チームを動かし続けることが大切だ、ということを自衛隊は知っているわけです。うちの卒業生の官僚が「先生、自衛隊はすごいですよ」とつくづく感心していました。

池上:昔の日本軍の悪しき根性主義から一番きちんと脱却していた役所が、なんと自衛隊だったわけですね。非常事態だからこそ無理をしない、というのは、災害報道の現場も同じです。現場に大量に記者を送り込んで、徹底的に取材させてくたびれ果てるまで使い倒します。でも、それだと途中で記者が疲弊して、長期間の取材に耐えられなくなってしまう。NHKでの経験ですが、名指揮官がいると、こうした無理を絶対にさせないんですね。まず第一陣が、宿泊や移動手段、食事などのロジスティクスを整備します。そのうえで、第二陣、第三陣の取材チームを送り込む。取材現場でも名デスクは「お前はまず休め」と記者を順番に休ませる。ダメなデスクは「ひたすら頑張れ」と指示してしまう。長期戦を乗り切るためには、ロジスティクスと順番に休むことが大切、というのは、私もかつて経験しました。

・・・・・引用終わり

 この記事を読んで、数年前に読んだ文部官僚の岡本薫氏の著書「教育論議をかみ合わせるための35のカギ」の一節を思い出しました。(岡本氏は、OECDに出向した経験をもとに、この本に海外から見た日本の教育の問題(精神論的教育、心の教育など)と、社会の問題を書いています。)

 この本の「マネジメントについて日本人は戦争から何も学ばなかったのか?」という記述のなかで、「戦争についての研究成果や出版部を読み、知れば知るほど、『軍人』の行動様式は、私の周りにたくさんいる『役人』の行動様式そのものだったということを知り、『軍人が支配しても文民が支配しても、日本政府の体質は変わっていない。また必ず失敗する。』」と書いてありましたが、記事を読む中で再確認するとともに、改めて、変えていく必要を感じました。