2011/12/07

医療の課題


 TPPに参加すると国民皆保険制度が崩壊しかねないといわれていますが、本当にそうなんでしょうか。私は、日本の医療がすでに厳しい状況にあると考えていますが、それらを含めて私の考えをここに書きます。

 まず、下のグラフをご覧ください(OECD・公的Pubric・私的private医療費のGDP比)




































 ヨーロッパの先進国は国民皆保険ですが、それぞれ国によって制度が違います。

 日本は国民皆保険であり、公的医療費はGDP比6,8%ですが、アメリカの公的医療費は日本よりも多く、8,2%もあります。アメリカには公的保険がないかのように思っておられる方もいますが、高齢者と退職者に対しては、公的保険としてのメディケアがあり、貧困者と障害者に対しては、公的保険としてのメディケイドがあります。また、連邦・地方の公務員には、公務員を対象とした公的保険が別途用意されています。(最も医療費が必要となる高齢者をカバーしています。)

 しかし、一般のサラリーマンや民間の組織で働いている人、および、学生や自営業者は、HMO、PPO等のマネジドケアや別の形態の民間の保険に加入していますが、公的保険にも民間保険にも加入できない無保険の状態の人が16%にも達しています。

 アメリカの制度がよいとは思ってませんが、それでも公的医療費負担が日本よりも多いこと、公的・私的医療費を合わせた総額においても日本が先進国で決して医療費が多くないことを知ってもらう必要があると考えています。

 またTPP参加国である、オーストラリアとカナダは国民皆保険(税)、ニュージーランドはイギリス型の公的医療(税)、シンガポールはすべての国民が給料の何割かを強制的に積立貯金する制度があり、そこから医療費を支払うようになっているようです。他の参加国は、公立病院では無料であったり、何らかの低所得者対策はなされているようです。

 自由化に関しては、すでにアメリカは薬剤の自由化と混合診療を迫っていますが、TPP参加国は経済発展とともに医療制度の整備が必要な国が多く、特にアジアの国々はこれから高齢化が始まるなかで、日本の社会保障の枠組みを理解している国が多いと聞いています。


 むしろ、日本の医療にはTPPよりも以前に大きな問題があります。

 日本は、世界で最先端の高齢化社会であるのに、公的医療費の総額が低く抑えられており、医師数もOECD諸国の平均人口1000人当たり3,1人に対し、2,2人と下回っているなかで医師不足が顕在化しています。そして、高齢者の増加とともに医療費の増加が予測されていますが、財源の議論も遅れています。


 さらに、今後、都市部での団塊の世代を中心とした急激な高齢化とともに、医師不足と医療従事者の不足は拍車がかかることと、年間450万人の病院・介護施設のベッド利用が、20年後には750万人に増加することから、都市部においてベッドの不足が深刻な問題になることが予測されており、在宅医療の推進が進められようとしています。しかし、そのため、大都市への医師の集中も懸念されます。

 11月10日に参加した研修会では、民主党副幹事長の梅村聡参議院議員(36歳)から、今は病院で死ぬのが当たり前のようになっているが、20年後の都市部では、病院で死ぬことができるのは宝くじに当たるようなものになるかもしれないと両親にも話しているとの発言もありました。

 実際に国立長寿医療研究センターから下のようなグラフが示されています。
 2030年に、約89万人は病院(医療機関)で亡くなられ、約20万人は自宅、約9万人は介護施設で亡くなられると予測されています。そして、「その他」で約47万人が亡くなられるとされています。

 TPPの議論の前に、日本の医療には財源問題、国民健康保険や高齢者医療制度の見直し、医師不足や、終末期医療の確立など多くの問題があると思います。

 これまで、日本では「医療のあるべき姿」から負担を求める議論がなされることは無く、医療財政を抑えるために医療をどうするかといった議論が主に展開され、小手先の改革のみが実行されてきたと思っています。結果は「医療崩壊」とも言われる状況を招き、不安と不信をばら撒きました。

 現在、政府において「一体改革」の議論がなされています。1990年には家庭の貯蓄率は19%でしたが、2010年には2%にまで下がっており、団塊の世代が年金生活に入る来年以降は貯蓄率はマイナスになると予測されています。莫大な公的債務を抱えるなか、年金積立金や民間の貯蓄が減って行くので、改革に残された時間はあまりないとも聞きます。医療・介護などの社会保障が国民にとって負担をともなう受益であることをしっかり主張して、必要な負担の説明をしていただきたいと思っています。