2011/11/07

TPPへの理解不足

 TPPについて少し議論をしました。

 日本は市場が十分に開かれていて、これ以上は譲らなくてもよい、最悪の場合でも、韓国のようにFTAで交渉に臨めばよいといわれる方がありました。

 確かに、日本は工業製品については関税はほとんどありませんが、アメリカは関税が残っています。かつて、日本が非関税障壁(行政指導の活用、メートル表記の義務付けによるインチ表記の排除など)を張り巡らせてアメリカから激しい抗議を受けて、何度も交渉を繰り返すなかで徐々に障壁をなくしたように、アメリカも(非関税障壁はないが)自国産業を守るために関税をかけています。

 多くの方はここで勘違いをします。お互いの貿易額が均衡していれば関税率も同じで問題は生じないですが、一方の国が恒常的に貿易赤字であるとき、公平に考えるならば、もう一方の貿易黒字国の関税を下げて、貿易赤字国の関税を上げなければ話はまとまりません。アメリカは恒常的な貿易赤字国として間違っていないと思います。日本が逆の立場であったと考えたならわかることです。

 たとえば、アメリカはトラックに25%の関税をかけています。これで実質的に海外からの参入を防いでいますが、韓国とのFTAでは年数をかけて0%にします。しかし、日本製のトラックは25%の関税がかかり続けます。

 他にも、乗用車2,5%、工業用部品4%と一見低く見える関税もありますが、競争が激しく利益率が低い状況下にある分野であり、企業の死活問題になります。

 私は、関税率表をすべて見たわけではありませんが、あまりにも何も調べずに反対されています。

 TPPに日本が参加すれば、アメリカの農業関係者の一部は喜ぶかもしれませんが、工業分野は関税撤廃により損失を被る方が多く、金融・サービス分野も言葉の壁と文化の壁が大きな障壁になります。(平成に入ってから多くの金融分野の外資企業が日本から撤退し、東京はロンドンのような世界の金融センターになれなかった事実を忘れています。)

 また、TPPに加入して日本政府がアメリカと同様に農家への直接補助に踏み切り、農家の生活を守りながら市場価格を下げれば、アメリカの米農家にとって脅威となるだけでなく、関税撤廃による輸入飼料と肥料の価格下落がもたらす畜産農家や農業全般への利益のほうが大きくなると思います。農業政策を転換し、欧米のように農業を輸出産業にしなければ、農業は日本の人口減少とともに縮小の道を選ぶことになります。(日本が参加すれば、アメリカの内から完全自由化に反対の声が上がって来ると思います。)

 それから、野菜の輸入関税は%から10%ぐらいで、実際の市場価格に換算すると1%にもなりません。しかし、野菜は今の割程度の価格で輸入品が売られると思われていますが、売値ベースで数%の関税撤廃で70%引きで販売できるわけはありません。それに、日本に輸入されている生鮮野菜は、東南アジア各国から特恵関税で無税で輸入されているものがあることを知っていません。

 そして、アメリカとのFTA交渉に遅かれ早かれ臨むとするならば、TPPも同じことだということが理解されていません。

 TPPへの新規参加を希望する国は、(1)交渉に参加するか否か、だけでなく、(2)交渉の結果できあがった協定に政府が署名するか、(3)政府が署名した協定を議会が批准するか、(4)協定に参加した上で不都合が生じた場合、協定の修正を要求するか、(5)修正交渉が実らない場合、最終的に脱退するか、と様々な段階で自国の利益を踏まえた判断をすることが出来ます。不都合なら、国会の場で、協定案を批准しなければ良いわけです。民主的な手続きに則った日本の判断をアメリカが否定することは出来ません。門前払いの方が、遙かに非民主的だと思います。

 議論を通じて、TPPについて、情報不足、理解不足を強く感じました。