少し古いですが、自民党の野田聖子議員のインタビューが日経ビジネスに載っていました。ここでおっしゃられていることは至極ごもっともですが、かつて日本は、1974年にはっきりと少子化を目指す政策を打ち出していました。
その後、政府は合計特殊出生率が下がり続けても何の対応もせず、1989年に合計特殊出生率が1.57まで低下して、少子化が社会問題となってからようやく動き出しました。育児休業法が制定されたのも1991年になってからでした。
フランスの人口学・人類学者のエマニュエル・トッド - Wikipedia 氏は、日本のような男性優位で権威主義的な家族制度を持つ国で少子化が進行していることを指摘しています。 つまり、社会が子育てを母親の役割と決められてしまうため、共働きしながら出産や子育てをするのは難しくなります。(旧ソ連圏やドイツ語圏、儒教圏なども同じ分類になります。)
一方、権威主義的な家族制度がない地域では、以前から核家族化が進んでいます。共働きも多く、夫婦や地域が子育てを協力し合う風土があります。欧州の北海沿岸にそうした地域が多く、これがフランスや北欧で出生率が高い要因とする分析もあります。
少子化に対して、自民党はこれまでの政策の反省と転換が必要だと思います。そして、同時に、民主党も政策の転換が必要だと思います。
以下インタビューの一部を引用します。
―― 2006年から少し反転したとはいうものの、自民党政権時代、長い間少子化が進み続けたのはなぜでしょうか?
野田 少子化って、今も日本の中心的な課題ではないですよね。言葉は頻繁に出るけれど、少子化担当大臣が単独で権限を持っているかというとそうではない。国会で、子ども手当のいやらしさについての議論はあっても、少子化全般への議論をしているわけではない。経済界でも、取り組んでいるのは大企業の一部です。
肝心なのは企業の9割を占める中小・零細企業ですが、ここでまったくやっていない。大企業だって経団連・経済同友会で女性の幹部はゼロですから、口では色々言うけれど、心ここにあらずでは、というのが私の実感です。10年前に比べれば、男の人も少子化を口にするようになったという程度です。
自民党は本気の少子化対策には邪魔な政党だった
―― この問題については、世代間の価値観の差も激しいですね。
私なんか、上の世代の価値観を押し付けられる政党にいるので、死にそうですよ(笑)。
この国はずっと、自分の子どもは自分の家で育てろという価値観でした。何より、子どもには票がないけれど、高齢者には票がある。社会保障費で、これまで高齢者に使ってきたお金と子どもに使ってきたお金を見てください。あまりに違う。少子化対策なんてしていないに等しい。パイの大きさの差で言うと、児童向けはほとんどおまけレベルですから。
この国は年寄り天国です。でもそういう認識が国民にもなく、子どもにほとんどお金を使っていないことは、広く知られてこなかった。
子ども手当は、政権交代の導火線の1つでした。過去10年、自民党は若年対策をしていなかったし、子どもを産みたい人に対するエールもなかった。政権交代は仕方がない。悔しいけれど私も、頑張っても抜本的なことは出来ませんでした。
自民党が与党のままだったら少子化対策は破綻していたから、民主党のお手並み拝見です。本気で少子化対策をするには自民党は本当に邪魔な政党でした(笑)。自民党の根本思想は、「(少子化は)女性のせいだ」というものです。
経済との関連性などが分析できていなかった上、少子化でもしばらく経済成長率が下がらず、ずっと右肩上がりで来た。それを経験してきた自民党は「少子化が経済を傷めている」という認識を持たずにきた。だから、単なる女のわがままだと考えたのです。
人の数だけなら、移民を入れればいいですからね。移民を入れた国の内情がどうかはなかなか表立っては議論しづらい。
子どもがいなくても経済は大丈夫という意識の中で与党を経験し、少子化が国を破綻に導く要因の1つだという発想に、なかなか切り替えられなかった。ただ、日本の社会保障の負担は若い人依存なので、それが維持できないのが恐怖になってきました。
―― 「少子化は女性のせい」という意識は、日本の今の意思決定層の年代に蔓延していませんか。
政治だけでなく、経済界すべての業界に及んでいます。でも長寿国家ですから、その人たちがいなくなるのを待っていられません。待っていたら、子どもがますますいなくなる。だから、今どうにか頑張らなくてはいけない。
まずは民主党に、夫婦別姓が実現出来るかどうかです。子ども手当は今いる子にあげるお金ですが、少子化は子どもを増やす必要がある。子ども手当では子どもは増えないでしょう。高学歴・高所得の女性から生まれにくいのが日本の特徴で、そこが一番の問題点なのに改善されない。
フランスは子ども手当の前に、結婚制度を変えた
フランスでは子ども手当をあげたら子どもが増えた、と鳩山総理は言っているけれど、フランスではその前に結婚制度も変えた。子どもを作るのに結婚ありきではなくなり、恋人でも同棲でも嫡出子としての権利を与えるので圧倒的に増えた。
フランスで生まれている子どもの4割が法律上、シングルマザーです。日本は1~2%。この差が大きいことが分かっていない。
少子化対策は、「ありとあらゆること」をしなければだめだと思っています。夫婦別姓はその「あ」程度です。自民党政権では、それすらだめでしたから。
中絶の厳格化と、ピルの自由化を同時に進めよ
一方、1年間の中絶件数は公称で20数万人と言われています。保険適用外なので実際には2~3倍近い堕胎があるのではないかと、NPO(非営利団体)法人などが言っています。変な話、これを禁止したら、産まざるを得ない人が出てくる。
もちろんこれは相当極端な話で、現実には難しいです。私が言いたいのは、それぐらい「えぐい」テーマにしないとだめだと言う事です。今は、まだ議論がきれいごとで終わっています。
でも即効性を求めるなら、20万人のうちもし半分が中絶できなければ、10万人が生まれてきますよね? そういう極端な議論もひっくるめた、本気の、包括的な議論が必要だと言いたいのです。
でもそういう真正面の議論は出来ない。自民党はずるくて、「中絶は女性の権利だ」と言って逃げていた。でも本来、女性の権利はちゃんと避妊できることで、中絶できることではない。問題をすり替えている。
中絶を厳格化するのと引き換えにピルの自由化をしたら、適正に子どもが生まれてくるでしょう。でもなぜかしていない。ピルが認可されるまでに数十年かかりました。バイアグラは1年ぐらいで認可されたのに(笑)。
少子化は、今ないものを作ること。保育園を作るなど「今いる人」向けの対策を施しても増えません。